vol.72 2005年 1月4日  『ゆったり暮らせば』 第44回

産経新聞 平成16年(2004年)2月12日 木曜日 12版 20頁
ゆったり暮らせば 第44回
〜人生最良の日〜
みんなで造った大好きな空間


 八年前、家探しをしているときの条件は、とにかくひたすら賃貸であることでした。土地やローンに縛られたくないし、ライフワークのラリーに半端でなくお金が掛かり、そんな余裕もなかったからです(年末のパリダカ出発前は、みごとにスッカラカンになる人生を繰り返していました)。それに「所有欲は最大の悪」と思っていたし・・・。

 ところがどうでしょう。四十五日間の母屋改築をやっている最中に、考え方が変わっている自分に気がつきました。ここは地元の開拓農協さんからお借りしている借地です。「事業に使うので出て」と言われたら、「即日に出ること」が条件だったので、改築は簡単にと思っていたのですが、いざ始めると、こだわらずにはいられません。ラリー車を作るときと同じく妥協できないし、自分らしいという意味でのカッコ良さも捨てられません。五十年前のむき出しの鉄骨と無垢材のハーモニーはまさに私らしく、間仕切りをなくした四十畳一間の大ざっぱさもいい感じです。

 「援農仲間はもちろん、ここを愛してくれるみんなで使いたい!」と思ってしまったので、それまで母屋にあった事務所も家庭用品もすべてトレーラーハウスに大移動させました。どっかーんとしたワンルームには、太陽の光がさんさんと降り注ぎ、まるで体育館か教会です。そう、安らぎの空間づくりの第一歩としては十分でした。みんなで造り上げてみんなで使うみんなのもの・・・「公共」という意味の原点に触れた気がした家造り。

 さて終えてみれば、パリダカに二回出場できるほどのお金が飛んでいきました。二回お休みしていたので、「計算上ぴったり!」なんて感心しているわけにはきません。またもやスッカラカンです。でも、今までに味わったことのない充実感は、「明日出てね」言われたら、この建物置いてニコニコ出ていける自分を生み出してくれました。汗水流して大笑いしながら造り上げた「時間と人の縁」が宝であり、築いたモノだったからです。建てて自由になるなんて、そして、持って自由になるなんて、考えたこともありませんでした。たぶん誰よりも執着を持っていたからこそ何も持ちたくなかったのでしょう。

 大好きな空間がスタートした平成十四(二〇〇二)年五月、業者さんや作業ボランティアなどかかわり合った百三十人が集まった祝いの席で、映画『ガイアシンフォニー』を自主上映しました。ここに来たときからの夢だったので、まさに人生最良の日です。でも素人ゆえ映写機が故障し、ピントが合わなくて大騒ぎになってしまいました。ぎゃあーっ! でも、それもまた私らしいと笑ってくれる人達に囲まれて、改めて支えられた人生に感謝するのでありました。ふうーっ。さーて、次なる目標は!?

エコロジーと”縁”と”援”でできあがった「あったかーい」空間=平成15年3月、静岡県富士宮市根原の自宅

 
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