vol.71 2004年 12月30日  『ゆったり暮らせば』 第43回

産経新聞 平成16年(2004年)2月5日 木曜日 12版 20頁
ゆったり暮らせば 第43回
〜母屋を改造〜
手弁当でかけつけた仲間たち


 朝霧に暮らして六年、とうとう大物の母屋に手をつけました。禁断の果実だったことはうすうす分かっていましたが、改造が始まると想像以上の展開になっていきました。内壁を解体する大工さんは、連鎖反応で崩壊していく外壁や天井を眺めながら唖然の連続です。どう改造したらいいものか頭の中で巡らせますが、終着点が見えてきません。

 「骨組みの鉄骨が曲がってるよ」「この鳥の巣、断熱材代わりになってたみたい」「おっ、土台はしっかりしているなあ」。大工のFさんの発する言葉にがくぜんとしたり感心したり。数十年の歴史を持つ母屋ですが、地元の酪農家が力を合わせて建てたときの様子が目に浮かんできます。「やっぱり開拓魂よ! こうなったら断熱材だけでなく、究極のエコロジーにこだわってとことん改造しちゃおう!」

 肝が据わった私は、羊毛の断熱材だけでなく、湿気や電磁波をぱくぱく食べてくれるという竹炭ボードをすべての壁に入れることにしました。ペンキやワックスは、赤ちゃんがそばにいても塗れるという自然素材ものにし、床下には炭をどっさり敷きます。電気は燃やしてもダイオキシンの出ないエコ配線、樋はステンレス、そして壁にはなるべく近いところで育った無垢の板材を使用することにしました。ソーラーや風力発電までは手が届きませんでしたが、”身体によくて面白いもの”というコンセプトは、金額の問題はさておき、やらずにはいられませんでした。それをやらなかったら、何のために主義を持ち、何のために生きているのか分からない−からです。それに、業者さんや仲間たちも面白がってくれました(たぶん)。

 そう、ここでもやはり仲間です。あまりに大がかりな作業になってしまったので、大工さんだけでは終わりが見えず、急遽友人達に呼びかけたら・・・なんと何十人もの人が、みんな手弁当でやってきてくれたのです。田んぼ作業と同じくライダーが多かったのですが、解体、大工、塗装、左官、土木、造園などのさまざまな作業に参加してくれました。ボランティアなのに、なぜかプロの重機オペレーターが幾人もいて驚きましたが、フットワークのよさ、寝袋ひとつで寝泊まりしてくれる身軽さ、そして「壊して一から建てた方が、安くて早くて簡単だった」という事実を笑ってくれるおおらかさには、ひたすら感謝でした。偶然ですが大工のFさんもオフロードライダーなので、息もバッチリ。

 かじ屋さんも水道屋さんも電気屋さんも、そして家族総出で手伝ってくれた会社スタッフも、毎日言うことが変わる私にあきれながらもワイワイ楽しそうにシゴトをしてくれました(たぶん)。そして四十五日後、感動の建物が完成したとき私は、ある考え方が百八十度変わっていたのです。

頼もしいペンキ塗りの助っ人に支えられて、着々とでき上がる母屋=静岡県富士宮市の自宅

 
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