産経新聞 平成16年(2004年)1月29日 木曜日 12版 20頁
ゆったり暮らせば 第42回
〜断熱材入れるう〜っ〜
寒さに耐えかね・・・ついに工事
「やっぱり始めちゃおう!」平成十三(二〇〇一)年の三月、燃えさかるストーブを見つめながら私は、とある決心をしました。戦後建てられた六十畳ほどの廃屋を手直しして事務所として使っていたのですが、寒さに耐えきれず壁に断熱材を入れることにしたのです。細かく区切られていた部屋をワンルームにしたり、かっこよさを重視して保温効果のある壁材を落としたりしたせいでしょう、マイナス一五度以上が続く冬は、部屋に入ってもジャケットを脱ぐことができません。寒冷地で見かける大型の灯油のストーブを置いても、暖かいのは前面だけで、背中はなぜかブルブル状態。手袋は必須で、どんなボアスリッパを履いてもアンヨは凍え、吐く息が白いのは当たり前なのでした。
「なんか違うなあ。たしか北海道に住んでいたときは、外は寒くても部屋の中は南国みたいだったのに」。ガラスをペアタイプに替えてみましたが、追いつきません。壁に煙突穴を開けた時に発見したのですが、十五?ほどある内壁と波トタンの外壁との間には、スッコーンとただひたすら空間が広がっているだけでした。「断熱材、入っていなかったのネ」。ストーブ二台が全開で燃えさかる状態を目撃した来客は、必ず言いました。「これって、エコじゃないよね」。”安らぎの空間づくり”の前に、まずこの問題をなんとかせねば。
ということで何はさておき断熱材となったのですが、知り合いの工務店が探してくれたのは、羊毛からできたぽわぽわのエコ断熱材。燃やして処分ができるというので、これをすべての壁に入れることにしました。どうせならコンクリートだった居間も、床の高さをあげて続きの部屋にしてしまおう。何しろそこは、寝袋で寝た人はもちろん、立つだけで骨まで凍りそうという危険箇所だったのです。外と繋がっていたので、雨後はミミズとナメクジで埋まり、暖かくなるとヤマカガシやカマドウマが闊歩する楽しいアウトドアコーナーではあったのですが。気になっていたのは、雨漏りです。引っ越した時に波トタンの屋根を手直したものの下地の鉄筋が腐っており、どうしても天井ポタポタから逃れることができません。そして外が濃霧ならば家の中も同じなので、本や写真やビデオテープなどの資料がかなり駄目になり、私の目からもポタポタと垂れるものが・・・。名刺には『自然回帰型生活びと』と書いたけれど、限界でした。
きっかけは肉体の叫びとなってやってきました。なんと寒さで指が動かなくなってしまったのです。「パソコンが打てない! 断熱材入れるうーっ」。というわけで、二週間で終える予定で始まったこの工事・・・、ふたを開けたら、あらま、とんでもないことになってしまいました。やはり(?)。
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波トタンに明かり取りの窓をつけただけの素朴なガレージは、山村さんのお気に入りの部屋だった=平成13年、静岡県富士宮市の自宅
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