vol.68 2004年 12月17日  『ゆったり暮らせば』 第40回

産経新聞 平成16年(2004年)1月15日 木曜日 12版 18頁
ゆったり暮らせば 第40回
〜奇跡との出会い〜
仲間たちに感謝の「ありが稲(とう)」


 「チャレンジ」が大好きなのは、その行動の先にある「奇跡とも思えること」に出会いたいからなのかもしれません。パリダカなどのラリーでは、絶対絶命の時に救いの手が伸びたり、常識では考えられぬ時間の流れでゴールしたりと、驚くようなことが頻繁にありました。自然、農へのチャレンジは「真剣にやれば奇跡も起きる!」という心意気がベースとなりました。

 あれは平成十四(二〇〇二)年の春のこと。一日がかりの田植えが終わってアイガモ農法用の網を張り始めた夕刻、突然どでかいヒョウ(ハンドボールくらいのも!)に襲われました。しかもこの地域限定。壊滅状態の苗たちの惨状にうなだれるも、私は叫びます。「大丈夫よ! アナタたちには”たわわ”と育つ記憶が入っているんだからネ」。心は張り裂けそうでしたが、とにかく稲の生命力を信じて見守りました。翌日も同じようにヒョウが降りましたが、苗を起こしてひたすら信じます。そして秋、黄金色のしっかりした稲がそれは見事に実りました。 収量もまずまずとプロが褒めてくれ、涙がほろり。無農薬に加えて味もよく、「こんないいものを出荷できるなんて、農家冥利に尽きるなあー」と感動じわり。お米の名前は、作家の友人に考えてもらった『ありが稲(とう)』に決定です。もう、これしかないっしょ! お米作りは、仲間が助け合う「結い(ゆい)」なくしてはできません。私の場合、百人を超える人の手を借り、愛情をかけまくって育てた結果の実りでした。機械の割合を減らして手植えや手刈りや天日干しが実現したのも楽農仲間がいたからです。

 昨年は田植えの前の「田起し」や「代掻き」を省く不耕起栽培にも挑戦。自然が造り上げた生態系を生かすという利点があるのですが、水中生物や飛んでくる虫や鳥の数がすごく、野生のカモまでやってきて、まさに田んぼの楽園状態でした。ただコツがつかめずに田植えでてこずり、根付くのに時間がかかって冷や汗でしたが、あの長雨の影響下で収穫が例年の四割は、奇跡だったかも・・・。それにしても、定番となった黒米に加えて赤米、緑米、香り米も作ってみましたが、虹色に輝く光景の美しかったこと!

 大切な何かが確実に育っているレイコ田んぼ、十一月に収穫した黒米の出荷が始まったばかりですが、もう新たなチャレンジが始まろうとしています。今年は不耕起&アイガモ農法に加えて、直播きコーナーも作るのですが、まずは不耕起のために、田んぼにアイガモを放すことになりました。糞(ふん)は栄養となり、カモの移動で土がいい状態になるそうです。あっ、その前に田んぼの水漏れを塞いでカモ小屋を修理しなくては。二〇〇四年の稲作りはもうスタートしているのです。イエーィ!!

遠くから集まってくれたたくさんの仲間の汗と努力が、初めての収穫に結びついた=平成13年秋、静岡県富士宮市下条

 
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