産経新聞 平成15年(2003年)9月4日 木曜日 12版 16頁
ゆったり暮らせば 第22回
〜自然農に挑戦〜
種の力を信じて任せて見守る
雨の日も嵐の日もどんなに忙しい時でも、敷地に作った小さな畑で農作業♪ 東京にいるときはベランダの植物を枯らしていた私がこれほど畑に夢中になるとは、誰が想像したことでしょう。きっかけは、愛犬「きゅう」との散歩中の野草観察でした。「生命の営みも大地のパワーも完璧。これは自分でも作ったら面白そう!」と単純に感じたからです。
すぐに「耕さず、化学肥料を施さず、雑草とともにある自然農」に挑みました。昔から本だけはたくさん読んでいた福岡正信さんの教えに従い、種の入った泥団子を大地にぽんぽんと撒きました。でもこれは大失敗。芽が出たものの、作物と雑草の葉の見分けがつかなかったからです。
二年目は三坪ほどの畝をつくり、直播きとポット育ちでやってみましたが、これは大成功。ナス、キュウリ、ピーマンなどの定番を始め、チンゲンサイ、黒豆、バジル、イタリアンパセリなど約五十種類のハーブや野菜がすくすくと育ってくれたのです。ハーブは放っておいても元気だし、野菜は収穫までの毎日、どきどきの感動がありました。春、芽を見つけたときは、思わず目頭が熱くなって・・・。
もちろん最初からうまくいったわけではなく、大量のアブラムシに悩まされる日々が続きました。薄めた木酢液や牛乳で葉っぱの裏を1枚ずつ洗ったり、虫除けになるマリーゴールドを畑の回りに植えたりと、無農薬にこだわる私は必死。そんな時耳にした自然農を実践している川口由一さんの講演会での言葉は、大きなヒントとなりました。「大丈夫ですよ。私たちのDNAの中には、みんな土を触っていたときの記憶が刻み込まれていますから、安心して土に向かってください。不安になったら、目の前の作物に聞いてください」。
砂漠のラリーで得たことも、実はそれに近いことでした。コンパスやノウハウ本も大切ですが、最後は自分と自然との対話であり、そこにしか答えはありません。私は不安を持つことを止め、ただ畑の意志に意識を傾け、それに従いました。「お水はこんなんでいいかな?」「もう少し堆肥欲しい?」。傍目には独りでつぶやく怪しげなオンナですが、私が心を入れ替えたその直後、一時はもう駄目かとあきらめかけていた作物が、雑草や虫は在るもののぐんぐん伸び、たわわの実りを迎えたのです。
すぐに気づいたのは、「子育てのポイントもこのあたりにあるのでは?」ということでした。不安になってあれこれ余計なことをしすぎると育たず、種の力を信じて任せて見守るとすくすく・・・。私にとって畑は、いろんな意味でまさに無限大級の学び処となりました。
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200種類もの野菜やハーブに挑戦し、無事育て上げた山村さん=平成9年初夏
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