産経新聞 平成15年(2003年)8月14日 木曜日 12版 18頁
ゆったり暮らせば 第19回
〜近所づきあい〜
四季に面白い行事めじろ押し
「気に入ったわ。ここで第二の人生を!」と住みたい場所が見つかっても、それでシャンシャンといかないのが田舎暮らしの面白いところです。「お待ちしてました。ぜひ住んでくださいね」。てなことは、別荘地ならともかくめったにないと思っていた方が賢明でしょう。静かに暮らしていた地域社会に嵐を呼ぶか涼風が吹くかは、新参者の良識と移住の決心度にかかっているような気がします。あとはお互いの相性と本音と譲り合いでしょうか。
朝霧高原に来て八年たって振り返ると、改めて「いろいろ我慢してくれたんだろうなあ」という思いがあります。なにしろ草原を見ただけで、「わーい、地平線までバイクで走れる!」と思っていた東京モンです(牛さんの食糧である牧草地は、当然「立ち入り禁止」)。地元ではオウムの事件が佳境に入ったころで、新参者に対して敏感であったにもかかわらずですから、素直に頭が下がります。
その八年前、地元の了承を得るためにまずご挨拶にいったのが、三十三戸ある地元の副区長、Sさん宅でした。お喋りがやたら楽しい奥さんとランニングシャツの下の日に焼けた筋肉がやたらまぶしい旦那さま。「怪しいものではありません」ということをどうやって説明しようかと思ったとき、奥さんが言いました。「あらー、あなたお昼にテレビに出ていた人ね! ほらお父さん、この人よく知っているわ」。あの時ほど自分の過去に助けられたことはありません。絞りたての牛乳と手作りパンを頂きながら、新しい道が見えてきた瞬間でした。
そしてめでたく住む許可が下りましたが、集落から離れていて、かつ留守がちであるということから、町内会における我が家の立場は、事業所扱いとなりました。班単位で行うゴミ拾いなどには参加しなくてよいけれど、少し町内会費が高いというものです。これが、実にいい距離。実際、成人式(こんなカッコイイ若者がどこにいたん?)、どんど焼き(初めての体験!)、花見(班単位なので更にアットホーム。ゲートボールは負けっぱなし!)、夏祭り(男衆はテキ屋に徹し、女衆は怖いほどに踊りまくる!)、運動会(高齢陣が激元気!)、文化祭(籐編み、お習字、写真、トールペインティング・・・酪農家は多趣味!)と面白い行事は目白押しですが、私はどんなに頑張っても三分の1参加がいいところ。でも出ると「こんなに面白いイベントないぞ」と素直に思い、「もっと地元と交わりたい」という気持ちだけは残ります。都会では関心のなかった近所づきあい。愉快と思うのは、大自然ゆえに集まって語らうことが何より大切ということを、肌で理解したからかもしれません。
でも私は知りませんでした。ここ朝霧界隈は名物人間の宝庫であり、富士宮市でも異色の地であることを・・・。
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可能な限り地元のイベントに出席する山村さん(左端)は、昨年行われた地元の運動会でも大活躍=静岡県富士宮市
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