2003年12月5日 ■ メダルへの道(なんちゃって・その3完結編)
 11月16日13時35分。やっとこさ『セルフディスカバリー in 屋久島』第3ステージスタート地点に到達しました。出場9組のうち(←少ないように思えますが、日本のトップチームがずらりという恐ろしいメンバーばかりでした)5番目の到着。5チーム参加のチームターザンではなんと2番目をキープしています。にこにこ。さて、全体的に遅れたためか、最終セクションである第4ステージ(1人はラン、2人はカヤック漕ぎまくりの約20キロ)スタートのリミットタイムが1時間伸びたとのこと。ということは・・・私たちがリバーウォークに与えられた最大時間は2時間10分。トップを快走する「サムライ・スピリッツ」が2時間で越えたそうなので、う〜〜ん、16時のカヤックスタートリミットまで行けるかは限りなく怪しい? そう、行ってみなければ分からないっす! 膝は絶不調ですが、私たち「アイアンスピリッツ」の3人はみんな元気でした。いつもとまったく同じどころか、よりパワフルで笑顔は消えません。喋りっぱなしの笑いっぱなし(ちょっと不気味?)。「ぎりぎりだけれど、行ってみよう」「きっと行けるよ、うん」。決められた15分という時間内にお腹を満たしつつウエットスーツに着替えます。汗をかいているのでかなり四苦八苦。途中『アゲイン』のポーリンと鈴木さんが全力で走ってきました。おー、激走だったのねー。でもこれは予測していたことだから驚きませんでした。むしろその後やってきた片山さんの苦しそうな姿を初めて見て、びっくり。「いつもは鉄人並みの片山さんが・・・そうかあ、みんなそれぞれのチームでいろいろあるんだなあ」と妙に感心したり納得したり。後で聞いたら、なんと「長谷川恒夫カップ」で痛めた膝が悪化して後半絶不調だったとのこと。私も同じ。麻里ちゃんもあれほど成績よかった「長谷川カップ」の後、自分のトライアスロンのトレーニングをしすぎて膝を悪くしたのだし、由花ちゃんも膝にきた後まったく運動出来なかったので、上半身を鍛えるトレーニングに切り替えての今回の参加だし・・・本当に体調をベストに持っていくのって難しい!
 

2つ目のお赤飯握りを頬張る麻里ちゃん。こんなひどい痛みは初めてだろうに、この笑顔! 「アミノバイタルpro」をひと呑みの由花ちゃん。「苦いよおっ!」 パワーバーのアップルシナモンで川を乗り切るぞ!のレイコ。



ちょっと遅れの「アゲイン」のポーリン。あだ名はずばり「恐るべしポーリン」。今回前半不調だったものの、後半はバリバリ!


 さてターザンスタッフに「いってらっしゃい」と見送られてのスタート。焦らず、手堅く、そして緊張感を持って、崖を下り始めました。すぐに「あれれ?」。見た目はそうでもないのですが、想像以上に滑ります。苔があるところは乾燥していても驚くほど滑ります。どこでも快走だったお気に入りのコロンビアのシューズも、ここは好きじゃないみたい。今年の夏、近くの川でリバーウォークでした時に、あれほど「沢はフェルト底の沢シューズじゃなきゃお話しにならん」と思ったのに。そして愛用の沢靴を持っているのに何故今回持参しなかったのだろうと、思い切り後悔してしまいました!!! ましてや膝が痛いときては、つるっと滑るたびに「ああ、何で持ってこなかったのお〜っ」のため息が。でもないものはないので、仕方なくずりずりダンスを踊りながら進む3人。そこを、高笑いと共にあっという間に抜き去っていったのが、10分後にスタートしたはずの『沢シューズ軍団・アゲイン』。やられた! でもお見事な速さでございました。私たちは貴方達がしっかりつけた足跡を追わせていただきます。実際この川は、一軒家とか一部屋ほどの岩がごろごろしており、どこでも通れるような通れないような、そしてどうにも対岸は歩き易そうに見えるてしまうので、あっち渡ったりこっち戻ったりと迷路のよう。そうこうしているうちにびしょ濡れの靴跡を発見すると、なんだか嬉しくて今度は私が手を挙げながら叫んでいました。「足跡、ハッケ〜〜ン!」

 

 歩いても歩いても岩と清流と山の景色が続きます。前半は特に大きな段差が多かったので、麻里ちゃんの顔がどんどん辛くなっていきました。スピードもどんどん下がります。いつも底なしパワーで余裕の走りしか見たことないけれど、きっと本人もそうに違いありません。辛いだろうけれど、ここはゆっくりでも行くしかないのです。ゴールに行くのが使命のレースでは、とにかく進むことしかないので、心で「ゴメンね、麻里ちゃん」を繰り返します。由花ちゃんは膝どころか絶好調のようで、道をリードして行きます。もうちょっと。もうちょっと。がんばれ。がんばれ。どうしても渡れないところは頭だけ出して泳いで渡りますが、もともと2人は前世は魚か?というタイプなので(麻里ちゃんはアイアンマンレーサーで週に何日も泳いでいるみたい。由花ちゃんもハワイのロングスイムに出ちゃう海好きで、セントラルのプールに頻繁に出没するらしい)、躊躇することなく激流に飛び込んで行きます。その気持ちのいいことったら!!

スタート地点もずりずり滑ります。走るというよりも、這う、落ちる、飛ぶ、跨ぐで要ストレッチ。
 「歩かずに流された方が早いんじゃない?」と何回も思う私たち。実際は泳ぐと体力消耗してしまうのでそうはいかないのですが、流された〜い。そして麻里ちゃんもそうだったようですが、冷たい水のアイシング効果でしょうか、私の膝はどんどん楽になっていきました。段差で足をついた時に滑ったり、幾度も恐ろしい転び方をするのですが、まったく膝の靱帯が外れません。バキッと外れてつっぷしてもよさそうなのに、膝も足首もよじれません。思いっ切り尾てい骨打っても、どこも痛くありません。疲れているのは事実ですが、30キロ近く歩いたことがストレッチだったのかと思うくらい絶好調です。一度調子にのって流れすぎて隠れ岩に思い切り骨盤をぶつけましたが、可笑しくて気持ちよくて、とにかく大笑いが出てきます。気がついたら膝下は前面は青あざだらけでしたが、爽快感には勝てません。

フェルト付きの沢シューズに履き替える「アゲイン」の鈴木くん。この笑顔で追い越されました! 片山さんはお膝が痛そう?



人生はこの川のごとし? 行けども行けども行けども、楽しい(?)岩ばっかりさ!「ゴールはあるんだよねえ


 途中、振り返ると、日の入り前の太陽が、雲の合間から長い光の筋を伸ばしていました。「きゃー、すっご〜〜〜い」。しばらく行くと、今度は沈む瞬間の光がまわりの山肌を一気に照らしました。強烈なライティングです。「き・・れ・・い。もう、たまんないね」由花ちゃんとただただ感激に浸りました。実は、歩きづらくてちょっと遅れる麻里ちゃんを見るために振り返った時に見えた光景。ひらすら前を向いて行進していたら気づかなかったはずです。光の中で「よいしょ・・・」と岩を越える麻里ちゃんのシルエットがなんとも言い難く・・・じ〜〜ん。しかし、日が沈むということは、次第に暗くなるということ。ちょっち不安? 歩けど泳げどなかなかゴールは見えませんが、私たちはひたすら目の前の石をひとつひとつクリアしていきました。第4ステージスタートのタイムリミット16時を過ぎたのは、リバーウォーク区間を8割ほど走破したころでしょうか。焦りもなくなり「よし、こうなったら思い切り楽しんじゃおうね」と気分も新たに真剣な川遊びに没頭です。
 と、これまた麻里ちゃんを待っているわずかな瞬間に、すごいことに気づきました。河原で立ち止まると、地震のように大地が揺れているのです。震度3以上? これは水の流れそのものと岩に当たる衝撃のなせる技。川そのものを振動させているなんて、唖然、呆然。初めてのとっても貴重な経験でした。
 もちろん自然は偉大ですが、この川で私は、改めて「この3人ってすごい」ということを確認できました。一緒にいてもばらばらにいても、けっして無駄のない動きをしているし、お互いの位置をきちんと把握しているのです。麻里ちゃんは「足を引っ張ってごめん」と思ったかもしれないけれど、ぜんぜんそんなことないんだよねー。きっと私、待った振りして疲れた身体を休めさせていただいたのかもしれない(だから身体がもった?)。素晴らしい自然も満喫したし、待つことはちっとも苦しくなかったのです。「不調自体が悪いのでも不幸なのでもない。悪いのは、それをキチンと受け取って活かせないこと」・・・そう思えるのは伊豆アドベンチャーレースの経験があってのことでしょう。伊豆アドで不調だったのは由花ちゃんでした。チーム参戦ではなかったけれど「長谷川カップ」では私、そしてこの屋久島では麻里ちゃん。ああ、すべては廻っているんだなあと感心してしまいます。調子のいい者がひっぱって行けばいいのであって、悪い時は頼りつつも全力で臨めばいいだけ。その時の心の持ち方ひとつで楽しくも苦しくもなるということを、とにかく実感しました。

 それにしても・・・ゴールの遠いこと! 石や水の感じから、そろそろだろうなあと思ったあたりで、かなり暗くなってしまいました。ヘッドランプを取り出すか、それともさっさとゴールを目指すか。「私、出すね」。由花ちゃんもストップ。ゴーグルのレンズをクリアに変えなかった為に、2000年のパリダカでゴール3キロ前のところで大転倒という痛い経験のある私は、この2分がもったいないな〜と思いつつも、ザックを開けました。と、その時です。「あと400メートルだよ〜」。先に行った麻里ちゃんの弾んだ声が河原に響き渡りました。迎えに来てくれていたオフィシャルの人の姿も見えます。錯覚ではなく、ほんものの人間だあ!
 実はそのかなり前から、「ああ、これでゴールしたら泣いちゃうなあ」と思っていた私は、あと少しと聞いただけで目が霞んでしまいました。でも最後まで気を抜いちゃいけない。あとちょっと、あとちょっと。麻里ちゃん、激痛なのによくやったね。由花ちゃん、本当に楽しかったね。よろよろしつつ進むと、暗闇の中で「ターザン」編集長、金城さんの声が聞こえました! 「わ〜い、あたしたち帰って来たよーっ」。暗くて分からないけれど、橋の上に幾人もの人がいるみたい。ここがゴール? 「いや、まだその先だよ」。明るい行灯があった。ゴール? 「いやもうちょっと上だよ」。ふうふう。あとちょっと、あとちょっと。ライトを出していない麻里ちゃんの足元が暗いので、二人のライトで照らして進みます。最後は狭い木道だ! 横に並んで麻里ちゃんのアンヨをかばいながらダッシュ。18時05分、ほんとうの本物のゴールに肩を並べて到着です。スタートしてから12時間がたっていました。
 もう涙を止めることなんてできません。私ひとりの力じゃこんなところまで来れなかった。いや、来れたかもしれないけれど、こんなに楽しく笑ってはできなかった。あんなに素晴らしい景色を一緒に見れたことも宝だったし、真剣だった。モチロン膝の不調の悔しさはあるけれど、全力でやったことへの満足感は大きく微塵の後悔もありません。誰も足を休めなかったし、気持ちも止めなかったからここまで来られたのだと思う。3人の気持ちがゴールに向いている時は、こんな力になるんだね。それを教えてくれて、本当にありがとう!! 2人もぼろぼろ泣いている。ああ思い切り抱き合って泣きたい! と、その時でした。「はいはい、カード出してね」とオフィシャルさん。あら、いやだ。そういえば伊豆アドの時もチェックカード出すの忘れていたような気が? そう、泣くのは完全完走してからだわね。この涙、残念だけれど、とっておこ〜っと。

 レース後、「どうしよう、今回は出るの止めようかな・・・」と思っていた2日前とは、まったく別人の自分がいました。何が変わったのかは分かりません。でも最後のセクションまで行けなかったのに、この気持ちよさは何なのでしょう・・・。結果ではなく充実度は満点だった「セルフディスカバリー in 屋久島」。課題があればもっともっと勇気を持って臨むこと、そしてもっともっと自然に畏敬の念を抱いて、もっともっと真剣に遊んでもらうことを学んだような気がします。



4位だった「アンビシャス」の面々。左よりオカンこと松田幸恵ちゃん(笑顔とパワーの弾丸娘・現役の日体大生)。援農でヒエ取りに来てくれたアベチョクこと阿部直くん(駅伝ランナー)、タックさんこと杉山隆司さん(オリエンテーリング界の強者)。藤田くんのご子息、碧玖(あおく)くんを囲んでのお立ち台。


使用後のチームターザン。「プロテイン」はやはり膝の支障者が出て第3ステージ手前で続行断念(川なので途中リタイアできない為)。ミスコースをリカバーしたものの「ホルモンDX」も同じ理由でリタイア。川で追い越していった「アゲイン」は、第4ステージに行けなかったけれど5位でした。


そして6位だった私たち、なんと女性クラス優勝でした〜!! スポンサーのサロモン、パワーバーなどから山のように商品をいただき、みんな仰天。そう、女性だけのエントリーチームは私たちだけだったんですね(そんなんかーっ)。あっははー。どんなことであれ、メダルは嬉しかったです。順位ではなく、私たちの成長にもらえたような気がしました。さあ、すでに次のレースは始まって・・・。



【おまけ】レース後はまともに歩けなかったのに、翌朝「昨夜の氷のアイシングが効いたわ」とケロリ顔で階段を下る麻里ちゃんは、やっぱりバケモノでした。そして「来週アドベンチャーレースに出ちゃおう♪」という底なしパワーの由花ちゃんもステキ! あ、そういう私も、20年前モトクロスでやって以来不具合を抱えていた右膝が、この屋久島で強靱な靱帯と化していたことを発見してニコニコ。たぶん春から夏のトレーニングがよかったのでしょう。信じられないけれど、こんなことってあるのね! という訳で、もし叶うならば、次なるアドベンチャーレースも、このバケモノ・・・じゃない、素敵なアイアンスピリッツたちと駆け抜けてみたい! まだ序章は始まったばかり、なのです。

写真提供 タック杉山&内坂庸夫



※このレースの模様は、12月24日発売の雑誌「ターザン/アドベンチャーレース特集」号に詳しく載る予定です。1年を振り返ってという全員の感想文も掲載予定。これは絶対にお見逃しなくなく〜♪
次へ(2003年12月19日)
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