vol.66 2004年 12月9日  『ゆったり暮らせば』 第38回

産経新聞 平成15年(2003年)12月25日 木曜日 12版 20頁
ゆったり暮らせば 第38回
〜カモの達人たち〜
真剣な態度、こちらが癒される


 「アイガモもらって」の呼びかけに応じてくれる人って、どんな・・・ヒト? そう思っていた私ですが、新聞を読んで連絡をくれた人たちには、度肝を抜かれました。すごいのです。ベテランなのです。カモフリークという人がこんなにいたなんて知りませんでした。

 連絡がきたとき、私たちはまずその環境をしつこくうかがいます。水場はあるのか、さくは完全か、小屋や餌場は快適か、などなど。二組ほど「ウチじゃ無理かなあ」という人がいましたが、他の人たちはすでにほとんどがカモ飼いの経験者であり、こちらが飼育情報を聞きたくなるような方ばかりでした。
 「ちょっと前まで重病人だったんだよ。でも鶏を飼い始めたらぐんぐん元気になって・・・。もっとたくさん飼いたくなってね」と話すのは、地元から軽トラでやってきたおじいちゃん。お元気そうで、リハビリ中には見えません。慣れた手つきで箱に納められたカモは、セラピーカモとして引き取られていきました。
 静岡のあちこちからやってきた家族連れも、みんな経験者でした。ただし鶏ではなく、クジャク(!)や傷ついた野ガモやたーくさんの鳩を飼っているといいます。飛ぶし、天敵がいるし、鳴くし、大変だと思うのですが、きっと環境も恵まれているのでしょう。カモに向けるみんなのまなざしが温かくて、私もうれしくなってしまいます。

 平成十四(二〇〇一)年の夏、最後に田んぼから出されたカモちゃんは、静岡市内に住む十二歳のTくんの元へ行きました。お母さんと一緒に引き取りに来ましたが、飼うのは息子さんとのことで、母は手も口も出さず、ただじっと見守っています。
 初めて飼うというので後で訪ねてみると、住宅街なのに家の横にはきれいな湧水がふんだんにわき出ていて、びっくりしました。そして人間が立てるほど立派なカモ小屋には、すっかりなついた二羽のカモが幸せそうに暮らしていました。ガレージには放し飼いのチャボやカメもいて、彼の動物好きがうかがえます。
 実は大工だった彼のお父さん、その一年前に、若くしてこの世を去ってしまったのだそうです。一人っ子のTくん、新聞を見て「カモ飼いたい。小屋も自分で作る」と宣言したかと思うと、父の大工道具を使い、せっせと小屋を作ったというのです。「自分で面倒みなさいよっ」と突き放している母も、彼のヤル気を応援しているのは一目瞭然。真剣に面倒をみている彼の様子に癒されてしまったのは、私の方でした。

 そう、どんどん広がっていくカモの縁には感謝ばかり・・・。ただ後で気がついたのですが、Tくん宅に行った”つがい”のはずのカモ、オス同士だったんだよねー。卵産まないのねー、ごめーーん!!

最後の2羽をもらってくれたTくん親子。「家族が増えた!」 =平成14年8月、静岡県富士宮市下条の田んぼ

 
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