vol.59 2004年 8月18日  『ゆったり暮らせば』 第31回

産経新聞 平成15年(2003年)11月6日 木曜日 12版 22頁
ゆったり暮らせば 第31回
〜レイコ田んぼ〜
HPなどで集まった仲間が100人


 農家になるための田んぼ三・三反を快く貸してくださったのは、わが家から四十分ほど離れたところにある水田地帯の一角に田を持つ、七十七歳のSさんでした。さっそく行ってみると、雑草も土も気持ちよさ気で、素人目にも「イイ田んぼ」と分かります。すぐ近くのお宅に伺うと、細やかに手入れされた庭や垣根、整理整頓された納屋が、”正しい農家”を証明していました。そして初対面のSさんの顔には、えびす様のようなほほえみが。直感に重きを置く私は、さらにやる気モリモリ。仲を取り持ってくれた田んぼ師匠のYさんもにっこりです。

 さて、時は田植え直前。大急ぎで師匠から、キヌヒカリの籾(もみ)をわけてもらい、育苗箱に仕込みました。田起こしと代掻き(しろかき)は、師匠に機械を借りての挑戦です。その二年前からやっていた共同田んぼでは陰で行われていた作業ばかりなので、未経験の私は楽しくて仕方ありません。実は「起こさず、化学肥料を施さず、手植え&手刈り&天日干し」を目指していたのですが、最初からは無鉄砲かなと思い、「田起こし」と「機械使用」は試すことにしました。やらなければ比べられないし、やってみてから考えよう〜という感じです。

 「それもいいんじゃない」「おらっち、いい加減だから」。今や援農仲間のアイドル的存在で、彼の生き方を目指して農業を始めようとする若者もいるくらいイイ味出しているY師匠は、五十六歳の兼業農家。郵便局で働く傍ら、アイガモ農法をはじめとするさまざまな米作りに挑戦している「楽農人」です。一握りの籾から増やしたという黒米を分けてくれたかと思うと、緑米、香り米、赤米など面白そうなことに次々と挑戦しています。「人と同じことしていても面白くないし、驚かせたいし」

 田んぼ作業はもちろん、肥料作りやカモの世話など、いい加減といいながらこまやかに動き回る様には惚れ惚れ。子供がいるとナイフを取りだし竹の水鉄砲をささっと作り、草笛を吹かせたら富士宮一。もしかしたら誰もがほほえんでしまうのは、師匠の”こども部分”への共感なのかもしれません。汗しながら働くときに必要なのは、遊びごころかも。「類は友を呼ぶ」で、師匠の仲間も個性的かつ行動的な人ばかりです。つながりはアイガモですが、指向もやり方もバラバラ。みんなが真剣にやり方を指南してくれる中(船頭多くして・・・とも言う)、楽しく田植えの準備が整いました。

 さて、私が大好きな田植え作業、「こんな楽しいコト、独り占めはもったいない」と、仲間に声をかけたり、ホームページで募ってみると、なんと希望者が百人も! 平成十三(二〇〇一)年春、みんなの力で「レイコ田んぼ」がスタートし始めました。

100人以上の老若男女が列を成して作業するレイコ田んぼの田植え(中央が山村さん)=平成15年5月25日、静岡県富士宮市

 
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