vol.28 2003年 1月30日  流れゆく時代の中で

 懐かしい知り合いから、電話があった。ちょうど10年前に通っていたエアロビクス教室の、女性インストラクターだ。たまに連絡を取り合っているのだが、突然、あの頃の“パワー”の話になった。「一体あれは何だったんだろうね」言葉の後で、お互い深い溜め息がこぼれた。今がパワー不足だなんて、二人とも微塵も思っていない。が、明らかに種類の違うギラギラしたエネルギーがあったことは確かなのだ。当時巷では、映画『フラッシュダンス』が話題になっていた。私はモトクロスのための基礎体力造りと称してエアロビクスを始めたのだが、これがなかなか面白い。仕事とは別にバイクショップを始める時期でもあり飛び回っていたのだが、その合間を縫って通い詰めた。そして、2日に1回が毎日になり、気がついた時には日に2回受けるほど夢中になっていた。
 アメリカからエアロビクスが入ってきて間もない頃であり、インストラクターもギラギラだ。思考錯誤ではあるが、みんな一心不乱に汗を流して楽しんでいた。原宿のど真ん中にあるそのスタジオに集まる会社帰りのOLたちにも、有り余るパワーがあった。ショップから手が離せず、結局3カ月ほどで止めてしまったのだが、あの心地よさが忘れられない。その後引っ越したこともあって、あちこちで教室を覗かせてもらったのだが、どうもあの爆発しそうなエネルギー空間が見られない。 「あの頃は、何だか分からないけど、みんな希望に向かってバアーッと走ってたのよね」と、彼女が言う。昔は、なんてあまり回想したくないが、不思議な時代だったことは確かだ。バブル。国中が、太い火柱のようなエネルギーに突き上げられて、動いていた。
 そして今、様々な観念が変わりつつある。人々の心が変わるより先に変わったのは、自然環境だった。あえいでいる地球の姿を目の当たりにし、“何か違う”ことを遅ればせながら悟ったのだ。人々が力の在り方や難しさを考えるのは、もしかすると産業革命以来かもしれない。
 バイクに乗り始めて20年。沙漠を駆け巡る海外ラリーに出場しはじめて、6年目。走ることは、私にとって呼吸と同じくらい自然なことであり、それ無しの生活はピンとこない。が、頭と本能で考えねば、と感じている。あの10年前とは違うのだ。ふと思い出してみると、敏感な10代の頃の私は、排気管から吐き出される窒素酸化物や二酸化炭素のことが、心配でしょうがなかった。あの頃の自分の思いに答えるのが、今ということらしい。人間の存在自体、自然とはいえず、窓の外で鳴いている鳥や虫のように大地と融合することは難しい。でも、限りなくそれに近い形で、全てのものが生かされる方法が何処かにあるはずだと信じている。
 ソーラーカー?ニューエンジン?
もうちょっとで大きくエネルギーが変わるだろう。意識が変わると世界も変わると言ったのは、誰だったか。夢の中で大空を飛んでいる時のあの気持ちよさが、1日も早く現実になりますように──それが今の私の一番の願いだ。 電話の向こうの彼女も同じことを考えているようだった。
「やっぱり、大切なのは愛なのよね」

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 株式会社エクスペイスというところに頼まれて書いたのですが、何の雑誌に載せたのかが思い出せません。ご免なさい!東京に住んでいる頃、おそらく1994年ごろのエッセイでしょう。2003年1月の掲示板で原宿界隈の話題で盛り上がり、なんだか懐かしいなあと思っていたら、これが見つかったのでした。流れていく時はいいものだなあと思います。ちなみにエアロビクスに通ったら、31インチのジーンズが28インチになりました。生まれて初めてお尻が小さくなり(20代前半は「お尻ブータン」とか言われていたのです。当たっているだけにむむむ!)身体が軽くて踊るように街を歩けました。とっても幸せだったあの感覚に戻りたくて、7年ぶりにスポーツクラブに入ってみたのですが、果たしてどう変化するのでしょう。しなかったりして・・・?
 当時のスタジオでの写真は1枚もないのですが、フラッシュダンスのジェニファー・ビールスを真似たヘアスタイルの写真は確かあったはず(けっこうミーハーです)。見つかったら載せますねー。



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