vol.22 2002年 2月 19日  『未舗装路拒絶症』

 地球という自然とどんな風につきあっていくのか、自分の肉体と精神をどんな風に捉えて遊ぶのかは、大きなテーマだと思います。だから人間を観察するのがなにより大好き。でも最近は自分が運動不足かなあと反省しています。文章に書いてある坂で躊躇していた少年は、今は立派なアスリートになってます。もしかしたらあの時の「ムムムーッ」で奮起したのかな。それから最後に抗菌グッズはなしと書いてありますが、ひとつだけずっと愛用しているものがありました。食品用アルコールを用いた除菌スプレーの「サニットコール(岩城製薬)」です。これは冷蔵庫内やトイレの便座&カバーなどにひとふきして拭くと、ほんとに気持ちいいの。これだけは離せないかも〜!

「保育の友」全国社会福祉協議会出版部    1998年11月号

子供は働く!ちょっとくらい辛くたって、うんと辛くたって、みんなそうして大人になっていくんだ。

 我が家の裏に、小さな桧林があります。山菜やキノコが豊富で、野草や鳥たちの姿を見るだけでも楽しい場所です。来客があると、必ず散歩へ行くのですが、みんな興奮して大喜び。ここは酪農跡地なので、かなり昔の子牛の骨があちこちに落ちていますが、子供たちは「恐竜の骨だ!すごいっ」と大騒ぎです。タオルにくるんで大切に持って帰る姿は、実にいじらしく思えます
 実は最近、あることに気がつきました。子供たちの未来に不安を抱くようなことです。きっかけは、昔からつきあいのある友人親子がやってきたことでした。いつものように散歩に出掛け、傾斜四五度、三メートルほどの坂道にさしかかった時です。サッカーボールほどの石と柔らかい土が入り交じった斜面を、みんな滑るように駆け降りました。ふと気がつくと、中学生の子供が上でひとり取り残され、頭を傾げています。「お前どうしたんだ。怖いのか?」と父親。「・・・そういう訳じゃないんだけど。ううん・・・」。「かかとに体重かけて、思い切って前に体重かけてごらん」。踏み出したいものの、やっぱり最初の一歩が怖いようです。「転んだっていいんだから、ホラ。もう、お前一体どうしたんだ?」。けっきょく子供は、はいつくばりながらゆっくりと降りて来ました。
 彼はサッカー、水泳、剣道が大好きなスポーツ少年です。ショックだったのは、やはりスポーツ万能の父親の方だったようですが、都会育ちの子供は、アスファルト上でのスポーツ、あるいは真っすぐな地面でのスポーツしかしたことがなかったのでしょう。運動神経が鈍いのではなく、どんなふうに土が崩れ、その時どう対処したらよいのかといったデータがまったく無かったのです。
 子供だけではありません。二十歳の女性とハイキングに行ったら、やはりバランスがとれず、下れないのです。八十歳の老人に抜かれながらも、自分でもどうしていいか分からない、といった感じでした。思い起こしてみると『未舗装路拒絶症』はたくさんいますが、いずれも幼い頃の体験不足でしょう。
 先の女性も職場ではパソコンの名手として頑張っていますし、坂道下れなくて何が悪いという方もいるかもしれません。けれども・・・『悪い』のです。この地球が自然などまったく無い所だったら、あるいは人間が動物でなかったら、それもいいかもしれません。しかし私たちの回りは全て自然の法則で動いています。この自然に生かされている限り、身体の能力を最大限に使っていくことこそ自然なのです。世の中には何らかの障害があり歩行そのものが困難な方も沢山います。周りにも脳性麻痺などで歩行困難な者がいますが、彼らの一番の楽しみは歩行であり、それは物凄い運動量です。やはり下りは苦手で時間を掛けますが、今思うと、先の友人の方がおぼつかない感じでした。

子供は好奇心!どんなに遠くても、駆け寄って触って遊んで笑って泣いて「ああ〜、楽しかった!」 

 昭和三十二年生まれの私は、野ザルのように育ちました。木を見たら登り、川を見たら泳ぎ、高い所に登ったら、必ず飛ぶ。痛い思いは数知れませんが、そのお陰でだいたいの所を歩けるし、危険な所も分かります。これが何よりの財産だと思うのです。アトピー、糖尿、脆い骨、環境ホルモン、化学物質過敏症・・・子供にとって地獄のような現状です。だからこそ、それを跳ね飛ばしてしまうくらいの身体が、菌だらけの土に顔を突っ込んでも、笑い飛ばせるくらいの図太い精神が必要ではないでしょうか。ちなみに我が家には、抗菌グッズはひとつもありません。もう一つ、遊びに来てくれた知人の犬たちのことを思い出しました。都会、田舎育ちにかかわらず、運動量の少ないその飼い犬たちは、広がる牧草地の斜面を歩くことが出来ませんでした。これ・・・かなり怖いですよね。



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